日本では死者数の減少を目標にして事故対策をしてはならない
まっとうな道路行政が営まれている先進諸国では、日本と同様に本格的な自動車社会が到来して間もない頃の爆発的な事故数の増大以後、事故件数や負傷者数を死者数と同じ傾向で減らし続けることに成功しています。
ところが日本では、死者数すら再び増やしてしまっただけでなく、平成5年ころからようやく始まった死者数の減少に対しても、事故件数や負傷者数を減らすどころか反比例的に増やし続けた後、高止まり状態が続いています。
交通事故について考えるとき、最も重要なのは事故(少なくとも負傷事故)が起こらないことです。しかし日本ではそれが軽視されていて、交通安全基本計画でも死者数ばかりを見て目標を達成したつもりになっていました。その結果、負傷事故を減らすことに完全に失敗しています。
もし、日本も先進諸国と同じように事故件数や負傷者数を減らすことができているなら、これまで通り「死亡者数を減らす」ことを目標とした事故対策を続けても構いませんが、日本はそれではいけません。その理由は次の通りです。
<1> 先進諸国では、死者数を目標に掲げても、まっとうな道路整備と事故対策をするので事故そのものも減ります。しかし、日本では 平面十字交差で歩行者が横断する幹線道路の建設が一般的であるなどの誤った道路整備と、本質からかけ離れた事故対策によって、事故そのものは増やしてしまいました。
<2> 死者数は事故の抑制対策の効果とは違う性質の数字です。日本で死者数が減少した主な要因は、事故そのものの減少ではありません。車両の乗員保護性能の向上、シートベルト着用率の向上やエアバッグの普及によって、重傷を負う確率が下がったこと。救助や救急医療体制、医療技術の向上によって、即死でなければ命を取り留める確率が高まったことによります。
死者数を減らしても、交通事故そのものの抑制につながらないという、わかりやすい例を1つ挙げましょう。ドクターヘリをもっと積極的に導入すれば死者数は減りますが、事故は減りません。
ようやく、第8次交通安全基本計画では、死傷者数を100万人以下にする目標が設定されました。しかし、主従関係が問題です。相変わらず「言うまでもなく,本計画における最優先の目標は死者数の減少である」とうたっているのです。
これまで「死者数を減らす」ことを目標としてきたことによって、事故そのものを減らすことから意識がそれてしまい、事故の瞬間や事故後の救命に目が偏ってしまった。という失敗を肝に銘じて、次のように意識を完全に転換する必要があります。
本質的な事故抑制対策を考えるためには、この図式をしっかりと頭にたたき込んで、死者数のことはあえて無視した方がよいくらいです。例外は、道路構造にかかわる細かな部分で衝突した場合の負傷軽減対策などです。また、自動車の乗員保護性能や、救助・救急医療体制の向上にかかわる人たちも、事故の瞬間と事故後に死ななくするための努力は必要です。
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